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藤子不二雄Aさんが亡くなりました

■白いケーキとオレンジジュース■

 同じクラスのれんくんは、いつもノートに絵を描いています。

「見せてよ」

「いやだよう」

「それは、雲?」

「雲じゃない、お化けだよう」

 雲には大きな目と口があり、頭に毛が三本、生えていました。

 ある日、誰かが言いました。

「れんくんが、また、おもらしした~」

 先生が言いました。

「だれか、一緒に帰ってやれ」

 ぼくは、一番に手を上げました。

 れんくんのお家は、大きな工場の中にあって、いくつもお部屋がある、とても立派なお家でした。れんくんと一緒に帰るとイチゴののった白いケーキと、オレンジ色の甘くてすっぱいジュースをいただくことができます。

 この秘密を守るために、ぼくは、いつも一番に手を上げていました。

「れんくんが、また、おもらしした~」

 先生が言いました。

「だれか、いっしょに帰ってやれ」

 ぼくは、また、真っ先に手を上げました。

 今日は、ぼくと、れんくんと、れんくんの妹と、三人でケーキとジュースをいただきました。

 ある日、ぼくは熱を出して学校を休みました。

 数日後、学校へ行くと、ケーキとジュースの秘密を、クラスのみんなが知っていました。

 れんくんがおもらしをして、ほかのだれかと一緒に帰ったのです。

 その日から、先生は、

「だれか、一緒に帰ってやれ」と言わなくなりました。

 今日も、れんくんはノートに絵を描いていました。

「見せてよ」

「いやだよう」

 それは、お化けではなくて、三人でケ-キを食べている絵でした。

 ぼくは、大きなフォークを持っていました。

 れんくんの妹は、長いストローをくわえていました。

 れんくんは、うれしそうに笑っていました。

 ある日、ぼくは熱を出して学校を休みました。

 数日後、学校へ行くと、れんくんがいません。

 特別支援学校に転校したのです。

 ぼくは、れんくんのお家に行きました。

 大きな工場も、れんくんのお家も解体作業が始まっていました。

 ぼくは、あの絵をもらっておけばよかったと思いました。  おしまい

■追記■れんくん(仮名)が描いていたのは「お化けのQ太郎」(BY 藤子不二雄)です。私が小学生のころは、こんなふうに誰でも一緒に過ごす、こんなインクルーシブな日常がありました。

 しばらくして、特殊学級→特別支援学級→特別支援学校というように、どんどん高くて遠い障壁ができてしまったような気がします。子どものころは不思議でした。でも、短い期間でしたが同じ教室に通っていた時期があって、強く印象に残っている人物の一人です。